塗装とは?めっき加工との違い
塗装 | めっき | |
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特徴 | 装飾や防錆を目的とした表面処理。塗料を物体に塗布または吹き付けることで、コーティングする方法。 |
金属を溶液に入れて、金属膜を付与する方法。装飾・防錆のほかに、機能を付けて価値を高める表面処理です。 |
メリット |
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デメリット |
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塗装とめっきは同じ表面処理方法にカテゴライズされますが、皮膜の形成に大きな違いがあります。その違いと、塗装のメリット・デメリットについてまとめてみましたので、ぜひ参考にしてください。
塗装の特徴
塗装とは
塗装とは、素材の表面に塗料を塗布または吹き付けることにより、塗膜を形成させる技術のこと。塗装にもさまざまな種類があり、用途によって使い分けられています。
溶剤塗装
シンナー等の有機溶剤に樹脂・顔料を溶かし入れ、ペイントローラーや刷毛などを使って塗布する方法です。塗装の中でもごく一般的な方法とされており、コストも比較的安価。ただし、有機溶剤には中毒性があるため取り扱いには注意が必要です。
焼付塗装
焼付塗装とは、塗料に100~200℃の熱を加えて揮発・硬化させ、硬度や防錆性を高める塗装方法。塗料の種類には、アクリル系・ポリエステル樹脂軽・ウレタン樹脂系・フッ素樹脂系などがあります。
電着塗装
電着塗装とは、専用塗料が入った液体の中に対象物を入れ、プラスとマイナスの電気を流して塗膜を形成する方法。付着させた塗料を乾燥させ、160~180℃の熱で硬化させます。
粉体塗装
粉体塗装とは、パウダー状の塗料を物質表面に直接付着させたあと、加熱溶解することで塗膜とする方法。液状の塗料に比べて厚い塗膜を形成しやすく、有機溶剤よりも環境・人体への影響が小さくなっています。
塗装とめっき加工との違い
表面に皮膜をつくるといった部分で塗装とめっきは似ていますが、めっきは「物質表面を金属皮膜で覆うもの」であり、塗装は「物質表面を樹脂皮膜で覆うもの」という違いがあります。
加工方法にも違いがあり、めっきは専用液が入っためっき槽に物質を浸漬させて表面処理を実施。塗装は、塗料を表面に塗る・吹き付けるといった方法で処理を行います。
塗装に比べるとめっきのほうがコストは高くなりますが、保護効果が高く長持ちしやすいのが特徴。塗装のほうが損傷しやすく、剥がれやすいという面があります。ただし、塗装は塗り直しが容易であるため、定期的なメンテナンスを行うことで塗膜を長持ちさせることが可能です。
塗装のメリット
機能を付与できる
塗装では、機能性塗料と呼ばれる塗料を用いることにより、素材に新しい機能を付与できます。代表的な機能として挙げられるのは、抗菌塗料による抗菌性、難燃焼性塗料・耐火塗料による防火機能、防カビ塗料によるカビの抑制機能など。その他にも、遮熱性・断熱性・防水性・耐湿性の付与が可能となっています。
導電塗装
導電塗装とは、導電性を有している塗料を素材の表面に塗ることで、対象の基材が絶縁素材であったとしても表面上に導電性を獲得させられる塗装です。導電性を高める表面加工には銅めっきや金めっきといった導電性に優れた金属を利用するめっきもありますが、導電塗装であれば難めっき素材や絶縁素材についても導電性を付与することが可能です。
容易に塗り直しができる
使用する塗料や塗装方法にもよりますが、一度塗装を施した上から再度塗り直しができるのは大きなメリットです。たとえば経年劣化でひび割れや剥離が生じても、その部分に再塗装を施すことで機能や品質を復元・保持することができるのです。また、塗装は対象物の大きさに左右されにくいため、大小さまざまなものに表面処理を行えます。
多彩な着色ができる
塗装に用いられる塗料は、樹脂・顔料・硬化剤といった成分を混合したもの。この組み合わせは多種多様で、着色顔料を混ぜることによりさまざまなカラーバリエーションを楽しむことが可能です。基本的にはどのような色彩にも対応できるため、装飾目的として使用しやすいのもメリットでしょう。
設備の持ち運びが容易
塗装方法にもよりますが、現場に設備を持ち込んで作業を行えるのもメリットのひとつ。基本的に塗装は常温・大気下で作業を行えるため、工場への運び入れが難しい大きな部品や、建築物といった対象物にも現地で塗装を施すことができます。
コストが低い
塗料自体は比較的安価なものが多く、設備も大がかりなものが必要ないため、めっきに比べるとコストは低め。工程数についてもめっきより少なく、加工賃を抑えることが可能です。
柔軟性と伸縮性がある
使用する塗料の種類や性質にもよりますが、柔軟性や伸縮性を備えた塗料を採用した場合、素材の伸縮や変形といった形状変化が生じた際にも塗膜が破れたり剥がれたりせず、表面加工の品質を維持することができます。また柔軟性や伸縮性に優れた塗料を使用することで衝撃や振動の吸収性を高められる可能性もあります。
一方、めっきは金属素材による硬質的な被膜を形成するため、どうしても素材の変形時には剥がれや亀裂が生じやすくなるでしょう。
非導電体に適用できる
基本的に、めっき加工は導電性を有する素材を加工対象としており、導電性の低い素材や絶縁素材といった非導電体ではめっきが困難になったり不可能になったりします。それに対して塗装は塗料が接着できるものであれば導電体でも非導電体でも加工することが可能であり、また塗料の種類や成分を変更することで幅広い素材へ塗れることもメリットです。
塗装のデメリット
めっきよりも密着性が低く損傷しやすい
塗装は物質の表面に塗料を付着させるだけなので、密着性がやや低いのがデメリット。塗装は定期的なメンテナンスを前提として用いることが多いため、比較的剥がれやすい・傷みやすいのが特徴なのです。その点、めっきは素材表面の凹凸に入り込んで密着するため、密着性ではめっきに軍配が上がるでしょう。
塗膜の均一性が低い
めっきの場合は電気の力で塗膜を均一に仕上げることができますが、液体を表面に塗布する塗装の場合、塗膜が不均一になりやすいという一面があります。電着塗装や、機械的に行う吹付塗装などもありますが、対象の形状によってはムラが発生しやすく、均一性が低くなります。
作業員のスキルによって仕上がりが異なる
塗装処理の完成度は、作業員のスキルに左右されるケースが多め。雑に作業を行った場合、表面にムラや塗り残しなどが発生し、耐久度などに悪影響を及ぼすことがあります。
耐蝕性と耐摩耗性はめっきより劣る
塗装は方法によってはめっきよりも簡単に作業しやすい上、機能性塗料を採用することでめっき加工のように色々な機能を素材へ付与することが可能です。しかし塗装はどうしても素材表面との密着性においてめっき加工よりも劣る場合があり、そのために製品や部品同士の衝突や摩擦によって塗装が剥がれたり削れたりすることも少なくありません。また塗装がはげた部分は腐食しやすくなる点もデメリットです。
一般的な塗料は導電性を備えない
導電性を備えた塗料を使うことで導電塗装を叶えられるものの、見方を変えれば導電性のない塗料を使うと、そもそもの素材が導電体であっても塗装後は表面の導電性が低下したり、いっそ絶縁体になってしまったりするということです。
そもそも導電塗装は機能性塗料を使った加工の一種であり、一般的な塗装に使われる塗料は大半が絶縁材料になっています。そのためあえて導電性に配慮した塗料の選択を行わない限り、塗装後の素材は通常、電気を通すことができなくなるでしょう。
高温耐性に劣るものがある
焼付塗装や電着塗装では高温下で処理を行って塗装しますが、およそ一般的な塗装手段として使用されている溶剤塗装などではそもそも塗料の耐熱性に限界があり、あまり高温・高熱にさらされる環境での使用には適していません。そのため、特に高温耐性や高熱耐性の獲得を目指したり、長時間にわたって熱や高温にさらされたりするケースにおいては、塗装でなく耐熱性に優れためっき加工の方が適しています。
求められる精度によって適切な加工方法を選ぶことが鍵
表面に塗膜を形成するという部分で共通点のある塗装とめっきですが、塗膜が金属か非金属かという大きな違いがあります。
品質や耐久性についてはめっきのほうが優れており、コストやメンテナンス性といった面では塗装のほうが優れている部分があるため、「それほど精度が求められない部品には塗装」、「構造が複雑・精度が必要な部品についてはめっき」を選ぶとよいでしょう。
以下では、めっき加工の相談事例を詳しく解説しています。ぜひご確認ください。
当サイト「めっきのめ」の取材協力について
めっきのプロにめっき加工のイロハを教えていただきました!
日本電鍍工業株式会社
電気めっき業界の組合、「全国鍍金工業組合連合会(全鍍連)」にて、令和4年度に優良環境事業所の認定を受けためっき加工メーカー。
SURTECH 2023 表面技術要素展では大阪を代表して出展。クライアントの課題を解決するだけでなく、めっきの研究部門を創設し、技術向上に励むめっきのスペシャリスト。
「めっきのめ」編集チームより