化学研磨
物理的な表面処理とは異なる、化学研磨とはどのような方法なのかをご紹介しています。使用される薬品の特徴や、化学研磨のメリットとデメリットについても参考にしてみてください。
化学研磨とは
化学研磨とは、電気を用いず薬品の化学反応で金属表面を溶かし、研磨を行う処理のこと。酸・アルカリ・塩類などを混合し、光沢材を加えた化学研磨薬品に金属または合金を浸漬させ、その溶解作用で物質の表面を平滑化。表面がクリーンな状態になり、光沢が出るのが特徴です。
化学研磨の用途と目的
化学研磨を施すと、物質の表面が平滑化され光沢が出るため、外観が良好になります。また、金属のバリを取り除くこともできるため、電子部品・機械部品等の表面処理として使用されるケースが多くなっています。
この化学研磨が適しているのは、予備研磨を済ませた物質表面の細かい凹凸を取り除き、光沢を出すための仕上げ工程。表面の大きな凹凸は取り除くことができないため、精密仕上げには向いていません。また、薬液に浸漬している部分はすべて化学研磨の対象となるので、物理研磨では対応しきれないパイプなどの筒状素材の内面、複雑な形状をした部品の研磨にも適しています。
使用される化学研磨薬品の成分とは
化学研磨薬品とは、金属の表面を平滑化・粗化するために用いられる専用の薬品。この薬品には、硝酸-硫酸-塩酸系(キリンス液)、リン酸-硫酸系、リン酸-硝酸系、過酸化水素-硫酸系などさまざまな種類があり、対象となる金属素材に合わせて選択されます。効果的に化学研磨を行うには、対象となる素材の表面が均一な組織で、なおかつ溶解スピードが均一である必要があります。
化学研磨の機能とメリット
金属表面の平滑化・光沢化を実現できる
化学研磨のメリットは、金属表面にある微細な凹凸・バリを溶解させて平滑化できること。化学研磨薬品が触れている部分は、ほとんど同じスピードで表面を溶解させることができるため、全体を均一かつ滑らかな状態にできるのです。表面が平らになるだけでなく、光沢度がアップするのも特徴です。
調整が比較的容易
他の表面処理方法と比較して、厚みや重量を調整しやすいのも化学研磨のメリット。ニーズに合わせて厚みを数㎜調整する、重量の変化を数㎎調整するといった、細かいコントロールを行うことができるのです。他の表面処理では難しい作業ですが、化学研磨であれば可能です。
耐食性を向上できる
素材の腐食は、ヒビや損傷などから水・異物等が侵入する、不純物が付着するといった原因から起こります。しかし、化学研磨で素材表面の不純物をクリーンにする、損傷部分の研磨を行うことで、耐食性を向上させることができるのです。ただし、この効果は電解研磨に比べると低いものとなっています。
複雑形状や内面も研磨できる
化学研磨の優れている点は、薬品に触れている部分すべての処理が可能であるということ。電気を通しにくい部分、複雑形状や微細部品、筒状のパイプや箱の内部であっても、ムラなく均一に平滑化できます。また、人の手が届かない部分や、加工製品の傷・バリ取りといった、機械研磨では困難な処理を行えるのもメリットのひとつでしょう。
加工変質層が発生しない
化学研磨の場合、薬液に浸漬できれば形状・位置などに関わらず、均一な研磨処理を行うことができます。そのため、物理的な力がかかる機械研磨で起こりやすい、加工変質層が発生しないことも特徴。また、研磨による切削屑も発生しないため、素材表面をクリーンに保つこともできます。
その他、1度で大量の製品を研磨できるため効率が良い、比較的ローコストであることも化学研磨のメリットと言えます。
化学研磨のデメリット
薬品の温度管理がむずかしい
基本的に、化学反応は高温になるほど活発化するものです。たとえばステンレスを化学研磨する場合、化学研磨薬品の温度を高く保つ必要性があるため、突沸などによる事故リスクを伴います。
また、硝酸-硫酸-塩酸系の薬液を用いるキリンス処理では処理を重ねるほどに薬液の温度が上昇してしまうため、水冷・空冷などによる冷却システムが必要。このシステムを使用する手間と費用が単価に反映され、費用がかさむこともしばしばです。
薬液の寿命が短い
化学研磨に使用する薬液は寿命が短く、他のめっき加工に比べると頻繁なメンテナンスが必要です。化学研磨では薬液の溶解力によって素材表面の平滑化・光沢化が引き起こされるため、処理が進行するにつれて薬液の濃度や質が変化。それに伴って溶解パターンも変わってくるので、安定した処理を行うためにも薬液の入れ替え・廃液処理といったメンテナンスを行う必要があるのです。
コストが高くなりやすい
化学研磨に用いられる薬液は、その他の表面処理で使われるものよりも単価が割高。さらに、先ほど説明したように薬液は処理が進むにつれて濃度・質が変化していくため、一定の品質を保つためにも、頻繁に入れ替えなどの管理を行う必要があります。こういった手間が単価にプラスされ、コストが高くなりやすくなっています。また、化学研磨を取り扱っている業者が比較的少ないことも高単価の一因となっています。
化学研磨が使用される製品・部品
- 精密部品
- 半導体製造装置部品
- 医療部品
- 電子部品、電設部品
- ベアリング部品
- ハトメなどの雑貨製品
- アミューズメント部品
- めっきの前処理…など
当サイト「めっきのめ」の取材協力について
めっきのプロにめっき加工のイロハを教えていただきました!
日本電鍍工業株式会社
電気めっき業界の組合、「全国鍍金工業組合連合会(全鍍連)」にて、令和4年度に優良環境事業所の認定を受けためっき加工メーカー。
SURTECH 2023 表面技術要素展では大阪を代表して出展。クライアントの課題を解決するだけでなく、めっきの研究部門を創設し、技術向上に励むめっきのスペシャリスト。