アルマイトとは?めっき加工との違い
アルマイト | めっき | |
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特徴 | アルミニウムに対して行う防錆処理。電気化学的にアルミニウムを酸化させ、被膜を太らせる加工方法です。 |
薄い金属被膜で、物質の表面を覆う加工方法。装飾や防錆効果のほか、摩耗性・耐久性などを向上させる効果も。 |
メリット |
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デメリット |
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アルマイトは、アルミニウムを対象とした表面処理方法のひとつ。ここではアルマイトの特徴と仕組み、用途、めっき加工との違いについて紹介します。アルマイトのメリット・デメリットについても知っておきましょう。
アルマイトの特徴
アルマイトとは
アルマイト(陽極酸化処理)とは、アルミニウムに対して行われる代表的な表面処理のひとつ。アルミニウムを陽極(+極)で電解処理し、酸化皮膜と呼ばれるアルミの酸化物を人工的に生成します。防錆を目的として行われることがほとんどです。
アルミニウムには酸素と結合しやすいという特徴があり、空気に触れることで表面に薄い皮膜が生成されます。この皮膜のおかげで一般的にアルミニウムは「錆びにくい」と言われていますが、非常に薄いため科学的・機械的な影響で損傷しやすく、腐食が進みやすいのがデメリット。こうしたアルミニウムの弱点を人工的な酸化皮膜でカバーし、耐食性・耐摩耗性などを高めるのがアルマイト加工なのです。
アルマイトは現在から一世紀前となる大正13年(1924年)に、当時の理化学研究所に所属していた鯨井恒太郎と瀬藤象二、宮田聡といった日本人研究者によって開発された国産の表面加工技術であるという点も見逃せません。なお、アルマイトの研究や開発はその後も継続されており、昭和9年(1934年)には国内初のアルマイト専業企業として「理研アルマイト工業(株)」も設立されました。
アルマイトとめっきの違い
どちらも表面加工技術のひとつですが、アルマイトとめっきはまったく違うものです。
まず、陽極と陰極のどちらで電解するのかといった違いがあります。アルマイトは陽極で電解処理を行いますが、めっきはアルミニウムを陰極として電解処理を行い、電解液の金属イオンを皮膜として析出します。
また、めっきは素材表面に金属の皮膜が張り付いた状態となりますが、アルマイトは素材表面の上に成長皮膜、下に浸透皮膜が成長した状態。つまり、アルマイトの皮膜は素材そのものに浸透しているのです。これも、アルマイトとめっきの大きな違いのひとつと言えるでしょう。
アルマイトが処理されたかどうかの見分け方
アルマイトによって表面処理が施されたアルミニウムは電気的に絶縁性を有することがポイントです。つまり、電気抵抗を測る検電器(テスター)を使ってアルマイト処理が施されているかどうかを見分けることが可能となります。
具体的な手順としては正常に動作する検電器を用意して、まずダイヤルを「Ω」マークへ合わせます。そして2本のテスターの針を対象素材の表面にしっかりと接触させ、通電が確認できなければアルマイト処理が行われているという状態です。
アルマイトの耐用年数
アルマイトの表面処理そのものに関しては具体的な耐用年数が示されておらず、素材としての耐用年数は使用環境や使用状況によって異なります。ただし、一般的にアルマイトは数十年単位で使用に耐えうると考えられており、長期間の使用を前提とする設備や機械の部品にアルマイトが活用されるケースは少なくありません。
ただし染色加工などによって作られるカラーアルマイトに関しては、紫外線の影響によって染料の色素成分が崩壊し、通常のアルマイトよりも短い期間で色があせるといった可能性はあるでしょう。
アルマイトの種類
アルマイトの種類としては例えば以下のような種類があります。
- 白アルマイト処理(普通アルマイト処理)
- 黒アルマイト処理(カラーアルマイト)
- 硬質アルマイト処理
基本的にアルマイトで形成される被膜は無色透明であり、通常のアルマイトでは表面はアルミニウムの色をそのまま反映しています。そのため通常のアルマイト処理は「白アルマイト処理」として区別されることが特徴です。
それに対して「黒アルマイト処理」は染料や顔料を使ったカラーアルマイトの1種であり、文字通り黒色で仕上げられたアルマイトになります。
なお、その他にもアルマイト皮膜の硬度や耐久性を向上させたアルマイトとして「硬質アルマイト処理」が利用されることもあります。
カラーアルマイトの退色を防ぐには
カラーアルマイトの退色を完全に防ぐことは困難ですが、少しでも状態を長持ちさせる方法として、あらかじめ濃色のカラーアルマイトを採用したり、仕上げ処理として封孔処理をしっかりと行ったりすることが有効です。
アルマイトのメリット
素材表面の錆びを防げる(耐食性の向上)
アルミニウムは自然に生成される酸化皮膜のみだと腐食が進みやすいため、アルマイト処理で耐食性を高めることが重要です。何の加工もされてないアルミニウムは酸素・水・化学物質と参加しやすく表面が錆びやすいですが、アルマイトで人工的な酸化皮膜を生成することにより、それらの影響を軽減することが可能。また、アルマイト処理後は表面に微細な孔があいていますが、その孔を塞ぐ封孔処理を行うことで、さらに耐食性を向上させることができます。
硬度および耐摩耗性の向上
アルマイト処理ではアルミ素材の耐食性だけでなく、硬度や耐摩耗性の向上も期待できます。アルミ素材の硬度はHv20~150ですが、アルマイト処理を施した酸化アルミニウムはHv200~600程度まで硬度が上昇。表面が非常に硬くなるため、自動車工業や機械工業といった分野で使用される素材に適しています。また、皮膜が厚くなるため摩耗を防げるというメリットもあります。
アルマイト皮膜により絶縁性を施せる
アルミニウムは電気を通す素材ですが、アルマイト皮膜は絶縁性を持つ酸化アルミニウム。つまり、アルマイト処理を施すことで絶縁が可能となります。ただし、アルマイト皮膜の絶縁性は電解処理や封孔処理の条件などによっても異なるため、細心の注意が必要です。
熱伝導率が下がる
種類によって異なりますが、一般的にアルミニウムは熱伝導率の高い素材です。しかし、アルマイト処理を施し酸化皮膜を生成することで、熱伝導率を低下させることが可能。その熱伝導率はアルミニウムの約1/3となっており、遮熱用としてシリンダやピストンといった部品に使用されることもあります。また、アルマイト処理をしたアルミ素材は遠赤外線などの放射性・放熱性が高くなるため、ヒートシンク等の部品としても用いられています。
カラーバリエーションが豊富
アルマイト皮膜には微細な孔があいており、その孔に染料を吸着させることでさまざまなカラーバリエーションを実現できます。レッド・ブルー・グリーンなど色のバリエーションも豊富で、色味の調整も可能。見た目はもちろんデザイン性も向上するため、カトラリー・モバイル機器・インテリア雑貨・コスメ容器・アウトドアグッズなどに活用されています。
アルマイトのデメリット
柔軟性に乏しい、脆い
アルマイト皮膜は非常に硬いため柔軟性に乏しく、屈曲や穴あけ加工を行うことでクラックが生じ、そこから剥離する恐れがあります。基本的には、アルマイト処理を施す前に加工を終えておくのが理想的です。
熱膨張しやすく皮膜がはがれやすい
母材であるアルミニウムは熱膨張しやすく、100℃を超えるとアルマイト皮膜にクラックや剥がれが生じる恐れがあります。アルマイトそのものは丈夫ですが、母材の性質による影響についても考慮しなくてはなりません。とくに、温度変化の激しい環境下での使用は注意が必要です。
退色しやすい
カラーアルマイト処理は多様な製品に利用できますが、紫外線・高温・空気中の水分などが原因で退色しやすいという特徴があります。とくに、熱が加えられると有機染料の分子構造が破壊されてしまい、退色劣化につながるとされています。
アルマイトが不向きなアルミニウムがある
アルマイトは全てのアルミニウム素材やアルミ合金に使えるわけでなく、ダイカスト用アルミ合金のように亜鉛や鉄といった不純物を多く含有する合金素材については、アルマイト処理が困難になります。
アルミニウムの弱点を補える優秀な表面加工
アルミニウムを対象として行うアルマイト処理は、錆びやすいという特徴を持つアルミニウムの弱点をカバーできる優秀な表面加工のひとつ。耐食性だけでなく、硬度や摩耗性能などもアップさせることができ、幅広い用途にアルミニウムを使用することができるようになります。ただし、環境や素材によってはアルマイトに向かないケースもあるため、処理を行うかどうかについては専門業者に相談してみることをおすすめします。
以下では、アルミニウムにめっきができるか否かを解説しています。ぜひご確認ください。
当サイト「めっきのめ」の取材協力について
めっきのプロにめっき加工のイロハを教えていただきました!

日本電鍍工業株式会社
電気めっき業界の組合、「全国鍍金工業組合連合会(全鍍連)」にて、令和4年度に優良環境事業所の認定を受けためっき加工メーカー。
SURTECH 2023 表面技術要素展では大阪を代表して出展。クライアントの課題を解決するだけでなく、めっきの研究部門を創設し、技術向上に励むめっきのスペシャリスト。
「めっきのめ」編集チームより