電解ニッケル・無電解ニッケル
ニッケルめっきには電解ニッケルと無電解ニッケルがありますが、それぞれどのような特徴があるのでしょうか。その機能とメリット・デメリットについて解説していきます。
電解ニッケル・無電解ニッケルとは
電解ニッケル・無電解ニッケルめっきとは、その名の通りニッケルを用いためっき加工のこと。加工に電気を使用するかしないかで、電解ニッケルめっき・無電解ニッケルめっきに大別されます。
電解ニッケルめっきとは
電解ニッケルめっきとは、電気を使用したニッケルめっき。めっき液中の金属(ニッケル)が陽極となり、外部電源(整流器)から供給される電子をもらうことで、陰極である加工物表面にニッケル金属を析出させます。比較的短時間で処理できるめっき加工ですが、時間を長くすることで膜厚を増やすことが可能です。
無電解ニッケルめっきとは
電解ニッケルに対し、無電解ニッケルは電気を使用しないめっき加工。化学的還元作用によって、ニッケル金属の皮膜を加工物表面に析出させます。めっき液は、硫酸ニッケルおよび次亜リン酸ナトリウム、錯化剤、pH緩衝材、安定化剤などで構成されているのが特徴。触媒の有無によって、自触媒型と非自触媒型に分類されます。また、膜厚が均一になるのも特徴のひとつです。
電解ニッケル・無電解ニッケルの機能とメリット
無電解ニッケルは皮膜を均一にできる
電気を使用しない無電解ニッケルの場合、対象となる加工物表面に均一なめっきを施すことが可能です。電解ニッケルの場合は電流分布の影響を受けやすいため、均一な皮膜を施しにくいですが、化学的還元作用の力で皮膜を形成する無電解ニッケルなら問題なし。複雑な形状の加工物であっても、皮膜が均一になりやすいのです。
寸法精度を維持できる
無電解ニッケルは、加工物の形状を問わず均一なめっき膜厚を実現できます。膜厚にバラつきがないため、高い寸法精度を要求される部品への施工が可能。耐食性・耐摩耗性についても電解ニッケルより優れており、電子部品・精密機械部品などの表面処理に用いられています。
高い硬度を実現できる
電解ニッケルに比べると、無電解ニッケルで形成される皮膜は硬度が高め。硬度が高くなると摩擦などからのダメージに強くなり、耐久性もアップします。また、無電解ニッケルはめっき加工後にベーキングという熱処理を施すことで、さらに硬度が向上。リンの含有率によっても異なりますが、ベーキング処理を行った無電解ニッケルの表面硬度は硬質クロムめっきに並ぶとされています。
不導体(絶縁体)へのめっき加工が可能
電解ニッケルめっきは電気を通す素材にしか使用できませんが、化学作用のみでめっきを施す無電解ニッケルめっきであれば、通電性のない不導体(絶縁体)への加工も可能。電気を流しにくいプラスチックやセラミックのような素材表面にも、めっき皮膜を生成できるのがメリットです。通電性に左右されない無電解ニッケルは用途が幅広く、さまざまなシーンで活用されています。
耐薬品性が高い
無電解ニッケルめっきは、総じて耐薬品性に優れているというメリットがあります。ただし、無電解ニッケルめっきはリンの含有率によって「高リンタイプ」「中リンタイプ」「低リンタイプ」に分けられ、それぞれ違った特性を持っているのが特徴。耐薬品性についてはリンの含有率が高いほど向上するため、もっとも耐薬品性が高いのは高リン無電解ニッケルめっきとなります。
電解ニッケル・無電解ニッケルのデメリット
無電解ニッケルはめっき浴組成の変動が大きく、管理が困難
無電解ニッケルは、電解ニッケルに比べるとめっき浴組成の変動が大きめ。そのため、めっき液の管理がやや難しくなります。また、90℃前後と浴温度が高く素材が熱の影響を受けやすいため、変形する恐れがあるものに関しては注意が必要となります。
コストが高くなりやすい
無電解ニッケルめっきは、薬液による化学反応を利用しためっき処理です。上でも述べましたが、使用するめっき液は管理が難しく、調整のために用いる薬品も高コスト。さらに、化学反応のみでめっき皮膜を生成するため析出スピードが遅く、加工コストが高くなりやすいのです。
電解ニッケル・無電解ニッケルが使用される製品・部品
- 電気電子工業部品(ボルト、ナット、バネ、シャフト、ステム、電子部品、抵抗体など)
- 精密機器工業製品(カメラ、テレビ部品、時計部品、電子顕微鏡部品、コピー機、プリンター、ハードディスクの下地など)
- 自動車工業部品(ピストン、シリンダー、ディスクブレーキ、ベアリング、回転軸、エンジン内部、変速機、精密歯車など)
- 航空・船舶関連(電気系統部品、エンジン部品、スクリュー部品、水圧系機器など)
- 化学工業関連(バルブ類、パイプ内部、ポンプ、反応槽、熱交換器、輸送管など)
- その他(工作機械部品、繊維機械部品、食品機械、冷暖房機、真空機器、冷凍機、半導体産業部品など)
アルミニウムに無電解ニッケルメッキ処理を行う
アルミニウム素材に様々な特性を付与するため、無電解ニッケルメッキ処理を施すことは可能です。ただしアルミニウムに対して無電解ニッケルメッキを行う場合、事前の処理など適切なノウハウが求められることは無視できません。
一方、適切なスキルや設備によって密着性を高められた無電解ニッケルメッキ処理は、アルミニウム素材に対して様々なメリットを付与できることが強みです。
耐食性と耐摩耗性の向上
アルミニウムは柔らかく、表面に傷が生じやすい素材ですが、無電解ニッケルメッキ処理を施すことで表面の硬度を高めて表面の滑らかさも向上し、結果的に耐摩耗性を高めることができます。また、耐摩耗性に優れた無電解ニッケルメッキはきちんとアルミ下地に密着することで、アルミニウムが酸素や他の物質との反応して酸化したり腐食したりといったリスクも軽減できます。
そのため、アルミニウムへの無電解ニッケルメッキ処理は耐食性も合わせて向上させることが可能です。
電気抵抗の低減とはんだ付けの可能性
アルミニウムへの無電解ニッケルメッキの目的として、電気抵抗の低減も挙げられます。また、アルミニウムは融点の低い金属であり、そのままでは高温の加熱を必要とするはんだ付けが難しいことも問題です。
無電解ニッケルメッキ処理をアルミニウムへ施すことで、アルミニウム素材においてもはんだ付けをできる可能性が獲得できます。
表面処理の改善
無電解ニッケルメッキは使用するメッキ液の種類によって硬さや耐久性、均一性、そしてメッキ加工の処理コストなどを調整できることも特徴です。
一方、アルミニウムはそのままでは表面の金属元素が酸素と反応して酸化被膜を形成し、素材としての品質や利用性に影響することもあります。
目的に応じた無電解ニッケルメッキ処理をコントロールすることで、アルミニウムの素材としての活用幅や応用の選択肢を広げられることもポイントです。
アルミニウムへの無電解ニッケルメッキを適切に行う工程とは
アルミニウムへの無電解ニッケルメッキは事前の処理が必要であり、通常のステンレスなどへメッキする際より複数の工程を要します。
- 脱脂工程
素材表面に残留・付着している油脂や汚れを脱脂処理によって洗浄し、不純物となる物質を除去します。 - エッチング工程(表面粗化)
強アルカリ剤を使用して、アルミニウムの表面を意図的に溶かして表面を粗い状態にする工程です。 - スマット除去工程(デスマット)
エッチング処理によって除去できないケイ素や銅といった不純物を専用薬剤で除去します。 - ジンケート処理工程(亜鉛置換)
スマット除去後のアルミニウムは大気中の酸素と反応しやすいため、素材表面の元素を亜鉛へ置換して酸化被膜形成を防ぎます。
カニゼンメッキと無電解ニッケルめっきとの違いは?
カニゼンメッキは無電解ニッケルめっきの俗称であり、両者は呼び方が異なるだけで本質的に同じものです。また無電解ニッケルめっきは「化学ニッケルめっき」と呼ばれることもあります。
ただしそれぞれは基本的に同じものであるものの、メーカーによってはあえて用途や成分比などを変えて両者を区別している場合もあるため、呼び方ではなく具体的な条件で比較することが大切です。
リン含有量
無電解ニッケルめっきでリンを含有する還元剤を使用する場合、被膜中のリンの含有量によって3つのタイプに分類されます。
低リンタイプ(1〜5%)
文字通りリン含有率が低いタイプです。めっき被膜の硬度が高く、耐摩耗性に優れている反面、耐食性では劣ります。
中リンタイプ(6〜9%)
低リンタイプと高リンタイプの中間的性質を有する無電解ニッケルめっきであり、各機能性について平均的な数値を叶えられることが特徴です。
高リンタイプ(10%以上)
リン含有率の高いめっきであり、耐食性に優れる反面、はんだ付け性などにおいて他のタイプに劣ります。
めっき層の厚さ
一般的な厚さの範囲
一般的には「2μm~20μm」がめっき層の厚さになります。ただし、可能な膜厚範囲だけを見れば「1μm~30μm」に対応させることも可能です。
薄いめっき層(1〜5μm)
薄いめっき層でははんだ付け性が優れる反面、被膜が薄いために耐摩耗性や耐腐食性では劣ってしまいます。
厚いめっき層(10μm以上)
膜厚が大きいめっきは被膜の強度がしっかりするため、防食性や耐久性、耐摩耗性などに優れた表面加工を再現可能です。反面、はんだ付け性では劣ってしまいます。
基材との密着性
無電解ニッケルめっきは金属だけでなく非金属素材も基材として活用できる反面、適切な前処理が行われていなければめっき被膜の密着性が低下したり、均一な被膜を再現できなかったりするため注意が必要です。
適切な前処理
- 金属基材:
酸とアルカリなどを使用して、アルカリ脱脂や酸洗い、電解脱脂などを行う。なお銅合金の場合は触媒の付与や活性化処理も行う。 - 非金属基材:
基材の特性に合わせて脱脂剤や洗浄剤を選定し、脱脂や洗浄、酸洗いなどを行う。プラスチックに関しては触媒の付与や活性化処理も行う。
耐食性と硬度のカスタマイズ
リンの含有量や膜厚などによってめっき後の性質を調整できるため、オーダーに合わせて条件を設定することが大切です。
耐食性の調整
耐食性を向上させたい場合、リン含有量を高めて高リンタイプを採用します。
硬度の調整
硬度を高めたい場合、低リンタイプを選択することが基本です。なお、耐久性を向上させるには膜厚を高めるといった方法もあります。
使用環境に応じた仕様選定
腐食環境
例えば海洋環境など腐食しやすい環境で使用する場合、耐食性を高めためっき条件を設定します。
摩耗環境
部品同士が接触したり、衝突したりするような環境では、耐摩耗性を高める条件を検討することも重要です。
外観重視
めっき被膜が均一になりやすい無電解ニッケルめっきは、電解ニッケルめっきと比較して美観に優れています。ただしめっき被膜の剥がれによって美観を損ねる場合は、耐摩耗性や耐久性の向上も合わせて検討することが必要です。
結論
無電解ニッケルめっきは加工条件によって特性や変化するため、専門家に相談しながらニーズに合わせて適切な条件や前処理などを検討するようにしましょう。
当サイト「めっきのめ」の取材協力について
めっきのプロにめっき加工のイロハを教えていただきました!

日本電鍍工業株式会社
電気めっき業界の組合、「全国鍍金工業組合連合会(全鍍連)」にて、令和4年度に優良環境事業所の認定を受けためっき加工メーカー。
SURTECH 2023 表面技術要素展では大阪を代表して出展。クライアントの課題を解決するだけでなく、めっきの研究部門を創設し、技術向上に励むめっきのスペシャリスト。