スズめっき・無光沢銀
スズめっきとはどのような加工方法なのか、使用される目的や特徴などについてまとめました。無光沢銀の機能とメリット・デメリットについても触れていますので、こちらも目を通しておいてください。
スズめっき・無光沢銀とは
どちらも品のある銀白色を有しており、装飾目的はもちろん、重電施設や機械部品への表面加工に利用されるスズめっき・無光沢銀めっき。その特徴を見ていきましょう。
スズめっきの特徴
スズ(錫)は元素記号「Sn」の金属元素であり、酸化や錆びに耐性があり、安定している素材です。そのため長期にわたって変質・変色しにくく、有害物が溶出しにくいため人体に対する有毒性も抑えられており、さらに美しい光沢を持っていることから装飾品としても利用されてきました。
加えてスズはハンダ付け性の向上や銅合金の製造など工業分野における利用価値も有しており、スズ単体としての利用はもちろん、基材にスズをめっきして特性を付与したスズめっきは機械部品や電機製品の製造などにも広く活用されています。
また、スズめっきには酸性スズめっきやアルカリ性スズめっき、中性スズめっきなど複数のめっき方法が存在することも特徴です。
酸性スズめっき浴
酸性スズめっき浴は、酸性のめっき液(めっき浴)を活用したスズめっきです。
酸性スズめっきには一般的に硫酸浴やスルホン酸浴が用いられており、特徴としては美しい金属光沢を獲得して美観に優れためっき加工を実現できることが挙げられます。
また、酸性スズめっき浴はめっき速度が速く、常温でのめっき処理が可能といった点も特徴です。
一方、均一電着性についてはアルカリ性スズめっき浴よりも劣っており、つきまわり(被覆力)については追求しづらいこともデメリットです。また常温加工が可能なものの、浴温度の管理については適切性が求められるため、きちんとした環境でめっき処理を施さなければムラやシミが発生しやすくなる点にも注意しなければなりません。
アルカリ性スズめっき浴
アルカリ性スズめっき浴は、めっき浴にアルカリ性の液体を使用するめっき加工であり、一般的にはスズ酸カリウムを用いたスズ酸塩浴などのめっき浴が使用されます。
アルカリ性スズめっき浴は酸性スズめっき浴と比較してめっき処理にかかる時間が長く、およそ3倍の加工時間が必要となります。加えてめっき浴の温度も60~85度の高さまで上げなければならないといった点が特徴です。また外観についても酸性スズめっき浴のような美しい金属光沢を再現することはできません。
しかし、アルカリ性スズめっき浴は均一電着性に優れており、被覆力の良さを追求できることがメリットです。その他、排水処理が容易な点も強みです。
その他のスズめっき浴
スズめっき浴には他にも中性浴などが存在しており、例えば基材が酸性やアルカリ性の影響によって溶けたり変質したりする際は中性浴が採用されます。
中性浴や弱酸性~弱アルカリ性のめっき浴には、カルボン酸浴やピロリン酸浴があり、詳細については加工業者へお問い合わせください。
スズめっきにおける「ウィスカ」とは
スズめっきを施す際に覚えておきたいのが、ウィスカという現象です。このウィスカとは、スズめっき後に発生する微小な突起物のこと。スズめっきは、はんだ付け性向上のため基盤内部等に使われることが多いですが、ウィスカが発生すると意図せぬ場所に接触し、ショートを引き起こす可能性があるのです。
このウィスカ対策として一般的なのは、銅やニッケルなどで下地めっきを行うこと。こうすることで、ウィスカの成長を抑制する効果が期待できます。
無光沢銀めっき
無光沢銀とは、添加剤が一切加えられていないめっき材。すべての金属と比較して熱伝導性と電気伝導性が高く、はんだ付け性にも優れているため、端子・接点等にも使用されます。適応素材は、銅・真鍮・ニッケルなど。添加物を含まないため皮膜が柔らかく、素材とのなじみも良好ですが、硬度が低く低接触抵抗等につながりやすいという一面があります。
スズめっき・無光沢銀の機能とメリット
スズめっきは毒性が低い
有機スズ化合物には毒性があるため注意が必要ですが、スズめっきに用いられるのは無機スズ。無機スズには毒性がなく、人体や健康への影響は見られません。スズは錆びにくく腐食しづらいため、古くから食器・調理器具・衣服の装飾品・アクセサリー等に使用されていますが、これらに施されたスズめっきから有機スズが発生するといったリスクもありません。
スズめっきは柔軟性に富んでいる
スズめっきは非常に柔らかな素材で、展延性に優れているのが特徴です。めっき後もその柔軟性は保たれており、加工後に形を変えることも比較的容易。折り曲げて使用するものや、圧着端子等の部品に使用されるケースが多くなっています。また、スズめっきは摺動性(潤滑性)も良好で、エンジンやピストンといった摩擦が起こりやすい部品にも使用されています。
無光沢銀は抗菌性能が高い
銀は人体に優しい金属素材で、銀イオンの抗菌効果・殺菌力でバクテリアやウイルス等に強いのが特徴。この特性を利用し、食器や調理器具といった人体に触れるもの、医療器具などに使用されることが多くなっています。
無光沢銀は、電気伝導率と熱伝導率が良好
無光沢銀は添加物が含まれていない素材のため、不純物がとくに少ないのが特徴。もともと銀は電気伝導率と熱伝導率に優れた素材ですが、とりわけ高い性能を誇るのが無光沢銀なのです。そのため、無光沢銀めっきを施すことで素材の電気伝導率をアップさせることが可能。たとえば電化製品のコネクタ等に利用すれば、電流を余さず製品内に流すことができるようになり、ロスを防ぐ効果が期待できます。
無光沢銀は優れたはんだ付け性を持つ
金属表面における、はんだのなじみやすさを指す「はんだ付け性」。無光沢銀はこのはんだ付け性に優れており、部品や他の金属などと接着しやすいという特徴があります。この特性から、銀めっきは電子製品の部品・基盤、コネクタ、半導体パッケージのリードフレーム等に活用されています。
スズめっき・無光沢銀のデメリット
スズめっきのデメリット
スズめっきでは、加工後にウィスカと呼ばれる突起が発生しやすいのがデメリット。スズの単結晶から成るごく小さなヒゲ状の突起物ですが、これが表面に発生するとショートなどのトラブルに発展する恐れがあるため、事前の対策が重要です。
また、スズは柔らかい素材で損傷しやすいのもデメリットのひとつ。耐食性に優れていますが、表面に傷がついて母材が出てしまうと、錆びやすくなるというリスクがあるのです。また、金属の中でも融点が低い素材のため、高温下での使用には向きません。
無光沢銀のデメリット
美麗な銀白色で装飾目的としても利用される無光沢銀ですが、空気中の硫化物と反応し、褐色・黒色に変色しやすいといった弱点があります。銀めっきの美しさを維持するためには、変色を防ぐための事前対策や、定期メンテナンスが欠かせません。また、無光沢銀は硬度が低く、低接触抵抗につながりやすいのもデメリットと言えるでしょう。
スズめっき・無光沢銀が使用される製品・部品
スズめっき
- 自動車用モーター部品
- 自動車電装部品
- 通信機部品
- 各種接点端子
- 接点摺動部品
- 電子部品端子
- 調理器具
- 服飾用のボタン…など
無光沢銀
- 電気自動車用充電コネクタ等
- 配電盤ブスバー
- 変圧器端子
- 圧縮端子
- 接触導体
- アパレル、装飾品関連
- 建築金物
- リフレクター、反射板…など
当サイト「めっきのめ」の取材協力について
めっきのプロにめっき加工のイロハを教えていただきました!

日本電鍍工業株式会社
電気めっき業界の組合、「全国鍍金工業組合連合会(全鍍連)」にて、令和4年度に優良環境事業所の認定を受けためっき加工メーカー。
SURTECH 2023 表面技術要素展では大阪を代表して出展。クライアントの課題を解決するだけでなく、めっきの研究部門を創設し、技術向上に励むめっきのスペシャリスト。