硬質クロムめっき
工業用クロムとも呼ばれる硬質クロムめっきとは、どのような表面処理方法なのでしょうか。硬質クロムめっきで形成できる皮膜の特徴と、メリット・デメリットについて解説していきます。
硬質クロムめっきとは
硬質クロムめっきとは、耐摩耗性を主な目的として施される比較的厚膜のクロムめっきのこと。一般的に、クロム金属の厚さが1μm以上のものを硬質クロムめっきと呼びます。無水クロム酸(三酸化クロム)が主成分となっており、触媒として微量の硫酸が加えられています。
硬質クロムめっきは工業用クロムめっきと呼ばれることもあり、これは硬質クロムめっきが硬度・耐摩耗性・密着性に優れており、工業製品に使用されることが多いから。また、電気めっきの中でもかなり硬度が高く、ハードクロムと呼ばれることもあります。
硬質クロムめっきの硬度
硬度を測る方法にはいくつかの種類がありますが、硬質クロムめっきをはじめとするめっき皮膜の硬度には、工業材料などの硬さを示すビッカース硬さ試験が用いられています。この試験によると、硬質クロムめっきの硬さはJIS(H8615)でHv750以上。工業用として用いられるものは、Hv850前後となっています。
硬質クロムめっきの厚さと用途
硬質クロムめっきの皮膜の厚さは、ニーズに合わせて調整することができます。一般的に、精密部品へのフラッシュめっきには3~5μm、金属表面のバフ研磨を行いたい場合は10~15μm、硬質クロムめっき本来の特性に期待する場合は20~25μm、肉盛めっき後に研磨等を行う場合は50~100μm厚が目安。めっきの膜厚は、厚さが増すほどに耐久性も高くなっていきます。
クロムめっきが適用可能な金属の種類
クロムめっきの品質を左右する要素として、ベース(母材)に使用する金属の素材が大きく関与しています。
クロムめっきの母材に利用する金属については、製品の用途とめっきの電着性の両面からかんがえることが重要であり、例えばクロムめっきとの適性を考えると以下のような分類が可能です。
- 適性の高い材質
炭素鋼、ニッケル鋼、クロム鋼、ニッケル-クロム鋼、亜鉛合金など - 特殊な前処理が必要
鋳鉄、アルミニウム、タングステン鋼、マンガン鋼など - 不向きな材質
タングステンやマンガンを多量に含有する金属
原則としてクロムめっきは適性の高い素材を中心に考えることが望ましいでしょう。
アルミニウムにクロムめっきを施すための前処理とは
アルミニウムはクロムめっきが可能な金属素材ですが、前提条件としてめっき加工の前に一定の処理が必要です。
そもそもアルミニウムは酸素と反応しやすい金属であり、通常のアルミニウム素材はその表面が酸化して、酸化被膜を形成しています。つまり、アルミニウム素材は極論すると常に酸化被膜で覆われている状態であり、そのままアルミ素材へクロムめっきを施しても、酸化被膜に遮られて素材表面にめっきを施すことができません。また酸化被膜を物理的に除去したとしても、めっき液へ触れた瞬間から酸化反応が生じて、再び酸化被膜が形成されてしまいます。
そのためアルミニウムへクロムめっきを行いたい場合、あらかじめ酸化被膜を除去した上で、下地めっきとしてニッケル被膜を生成し、その上にクロムめっきを施すという工程を経なければなりません。
アルミニウム基材に対するクロムメッキの接着強度の測定方法
引張試験:めっき層がアルミニウム基材から剥離するまで引っ張り、剥離時の力を測定
アルミニウムに対してクロムめっきが適切に施されているのか、密着性を確認する検査として「引張試験」があります。具体的には引張試験機へサンプルを設置し、めっき面が基材から剥がれるまで引っ張って、剥離する時点の負荷強度を測定します。
剪断試験:めっき層に剪断力を加え、剥離する際の力を測定
めっき被膜と基材の境界部分に対して、剪断方向へ負荷をかける測定法です。
そのままスムーズにめっきが剥離されるのでなく、基材が引きちぎれたりめっき被膜が破れたりすれば、相応の密着性が保たれていると判断できます。
剥離試験:めっき層の一部を剥がし、剥離に必要な力を測定
引張試験と似ている試験です。テープや専用の測定器を使用して、めっき層が基材と剥がれるまでに必要な負荷を測定します。複数のサンプル試験によって剥離試験の結果で差が生じる場合、めっき加工の品質や工程に問題がある恐れが高まるでしょう。
硬質クロムめっきの機能とメリット
めっきの中でも硬度が高く、耐久性に優れる
硬質クロムめっきは、電気めっきによって生成できる皮膜の中でも硬度が高くなっています。たとえばアルミ素材の表面硬度をアップしたいといった場合、硬質クロムめっきを施すことで硬度を向上させることが可能。耐摩耗性・耐久性を高めることができます。
一般的に、製品の見た目を良くする装飾めっきとして選ばれることの多いクロムめっきですが、硬質クロムめっきであれば硬度という新たな機能を付与することができるのです。
厚さがあり、耐食性に優れている
塩化物は例外となりますが、化学薬品に対して反応しにくい硬質クロムめっき。しかも、用途に合わせて膜厚を調整でき、10μm厚以上の硬質クロムめっき皮膜は大気中でも良好な耐食性を備えています。下地めっきを施しておけば、さらに耐食性を向上させることもできるため、屋外等で使用する製品にも利用しやすくなっています。
摩擦係数が小さい
電気めっきによって生成されるその他の皮膜に比べて、硬質クロムめっき皮膜は摩擦係数が小さくなっています。摩擦係数が小さいということは、部品や物体同士が触れ合う場所でも滑らかに動きやすいということ。つまり、接触によって発生するダメージから、製品を守りやすいということになります。
硬質クロムめっきのデメリット
酸性の化学薬品に弱く浸食されやすい
厚みがあり硬度にも優れている硬質クロムめっきですが、ある一定の化学薬品には弱いのがデメリット。塩酸・塩化カルシウム・塩化亜鉛・塩化第一鉄・塩化第二鉄・塩化スズ・フッ酸・リン酸・シュウ酸・希硫酸・クエン酸・硝酸・硫酸アルミニウム・乳酸といった、基本的に酸性の薬品に浸食されやすくなっています。
めっき厚のバラつきが大きい
硬質クロムめっきは電流効率があまり良好ではなく、他の電気めっきに比べて均一電着性に劣るとされています。電気が流れやすい角部は皮膜が厚くなるためバリやコブなどが発生しやすく、形状が複雑な部分や隅部には皮膜が形成されにくくなります。
つまり、品質を安定させて均一な皮膜を形成するためには、電圧や温度の管理といった技術と、治具製作などの設備が必要であるということです。もちろん技術者の腕にも仕上がりが左右されるため、加工業者の選び方にも注意が必要です。
クラックが生じやすい
硬質クロムめっきは、ある程度の厚さまでは滑らかで丈夫な皮膜を形成できますが、それ以上になるとクラック(割れ)が生じやすくなるのがデメリット。これは、電着層における内部応力が、クロム分子の相互に引き合う以上の力になったときに発生するとされています。厚さが増すほどにクラックの発生率は高まるため、素材や用途に合わせて慎重にプランニングする必要があるでしょう。
コストがかかりやすい
その硬度の高さから、耐摩耗性を目的に用いられることの多い硬質クロムめっき。しかし、その他の電気めっきに比べると硬質クロムめっきは均一電着性・被覆力が良好ではないため、要望や素材によっては工程に時間を要します。
また、処理に関する技術者の力量やノウハウも必要となるため、コストが高くなりがち。ちなみに、硬質クロムめっきが容易な素材は鉄鋼・ステンレス・銅など、困難な素材は焼結合金・タングステン鋼・プラスチックなどになります。
アルミニウムクロムメッキのメンテナンス方法
定期的な清掃
基本的に、クロムめっきのメリットを維持するためには表面の美観を損なわないよう定期的な清掃によって状態を維持することが大切です。なお、清掃を行う際にはめっき被膜へダメージを与えないよう、専用のクリーニングアイテムを使用します。
防錆処置
クロムめっきが適切に維持されている場合、耐食性や防錆性も維持されていると考えられますが、使用環境によってはサビが生じることもあります。そのような際にはブラシや研磨剤でサビを除去しましょう。
潤滑
製品同士がこすれ合うことでめっき被膜が剥がれる場合もあります。そのため、異なる部品同士の摩擦や接触が生じる場合、潤滑剤などを適切に使用してめっき被膜の劣化を防ぐこともポイントです。
硬質クロムめっきが使用される製品・部品
- 機械部品(摩耗しやすいローラーや金型など)
- シリンダー、ライナー
- ピストン、ピストンロッド…など
当サイト「めっきのめ」の取材協力について
めっきのプロにめっき加工のイロハを教えていただきました!

日本電鍍工業株式会社
電気めっき業界の組合、「全国鍍金工業組合連合会(全鍍連)」にて、令和4年度に優良環境事業所の認定を受けためっき加工メーカー。
SURTECH 2023 表面技術要素展では大阪を代表して出展。クライアントの課題を解決するだけでなく、めっきの研究部門を創設し、技術向上に励むめっきのスペシャリスト。